羽ばたけるのなら、天使になれるね 容姿端麗という代物は、確かに人目を引くに違いない。 見るのなら醜悪なものよりも綺麗な方が良い、と面食いではないはずの王泥喜ですらそう思う。 だから、それだけなら、俺はまず先生を好きになっていたはずだ。九歳違いだと聞いたけれども、あの兄弟は容姿に限り、本当に良く似ていた。 最初に逢ったとき、それこそ、息を飲む勢いで。 顔は似ている。髪型がほぼ同じなのは、どちらかが、どちらかに合わせてたんだろうか(聞いた事などないけれど) ついでに、くだらない事を考えてみるに、幽体離脱とか出来そうなほど似ている。 最も、片方はやってくれる事など絶対になく、もう片方は喜んでやってくれそうな気がする。 ふとそんな事を考えていた王泥喜は、視線の先に彼の姿を捕らえ触覚を大きく揺らした。まるで、妖怪アンテナみたいですねぇと、みぬきちゃんならツッコミを入れてくれたのかもしれない。…が、生憎彼女は此処にはいない。 並んで歩いていた職員と言葉を交わしていた牙琉検事の視線も、こちらへ移った。ニコリと微笑む。本当に、屈託のない仕草だと王泥喜は思う。 「やあ、おデコくんも用事かい?」 「ええ。」 指先で、先にと隣にいた人物に示して、牙琉響也は自分の横で立ち止まる。 柔らかな笑みを浮かべ、僅かに膝を縮めた。 これが、自分よりも背が低い人間に対する時の彼の癖。直滑降に見下ろすのではなく、自分が相手の視線に降りてくる。 これは、男としてはかなり屈辱的なのだが、相手に他意がないのだから怒る事も出来やしない。おまけに交わる視線に喜びなどを感じてしまうと、もう、うやむやだ。 最初に返事をしたまま、何も話そうとしない自分を不思議そうに眺めて、牙琉検事は、小鳥みたいに首を傾げる。彼の額や肩にかかる色素の薄い髪がさらりと揺れ、それに合わせたように視界が揺れた。 なんだこりゃ。俺には、そんな(めるへん)が宿っていたのかと鼻息が荒くなる。 「元気がないんだね。熱でもあるのかい?」 声は耳元で、気付けば距離は零になっていた。ゼロはゼロだ。何をかけようとも割ろうとも、増えも減りもしない。 くっついたままの互いの額は、その体温を仄かに残す程度の時間密着していて、そして離れた。 「…無いようだ。お腹でも空いているのかな?」 やった本人はごく当たり前の仕草だったらしく、照れも躊躇いもない。クスクスと笑って、再度顔を覗き込まれる。 「奢ってあげたいけど、時間がないな。また今度って事で。」 じゃあ、と軽く片手を上げる。 奢る…この様子は、捨て犬に餌を与える気分と恐らく大差ないだろうと推察される。ここまでやられると、いっそ清々しい(んな訳あるか、異議ありだ。) こっちは心臓が口から飛び出しそうで、そうなったら種も仕掛けもないですよ〜と臓器を口からぶらさげて宣言しそうな勢いなのに、どうして、彼はこんな(恥ずかしい)事を躊躇いもなくやってのけてしまうのだろうか。 『何者だ、こいつ』と感じるはずが、脳裏に(めるへん)を宿したおかしな俺は、純粋だなぁとか、素直だなあとか反応する。 きっと、そこが自分の中でも、先生との最大の違いなんだろう。 そう言えば、先生を悪魔のようなと評した者がいたようだったが、牙琉検事はひょっとすると、天使かもなどと言う愚きわなり思考が浮かび、いやいやと否定する。 羽根なんか生えて、飛んでいかれたら日には掴まえられないじゃないかと、続けざまに浮かんだ言葉は、王泥喜にがっくりと肩を落とさせた。 …俺こそ一体何者だ。おかしいにもほどがある。 王泥喜が変というか、私が変です・苦笑 content/ |